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和綴じ<亀甲綴じ>を作って和紙を楽しむ。

和綴じを作ってみよう

こんにちは、お会いできて光栄です。当サイトのコンセプトはトップページをご覧ください。

ホッチキス、クリップ、クリアファイル…私たちの生活の中には書類をまとめる道具がたくさんありますよね。
そういった便利な物があるのに、むしろ昔のファイリング方法「和綴じ」が最近人気らしいのです。

きっかけは御朱印ブーム。御朱印を書いてもらう時は普通のノートではなく、和紙で作られた和綴じの「御朱印帖」を使います。
それを自分で作ってみようということで、和綴じに関心を持つ人が増えました。
私も和綴じの体験会に参加したので作り方をご紹介しましょう。

教えていただいた先生:井上淳子さん(atelier ROSE & SATY
会場:「市立枚方宿鍵屋資料館」(大阪府枚方市)

この記事の情報について

この記事の内容は私が体験会で学んだ事と、調べた情報をまとめたものです。当日配布された資料も参考にさせていただきました。
講師の井上淳子先生、主催の市立枚方宿鍵屋資料館様、貴重な体験と情報をご教示いただき、誠にありがとうございました!

和綴じって何?

和綴じの本文に表紙を当て、ヘラで折り目を付けている様子
(十返舎一九「的中地本問屋」より<国立国会図書館デジタルコレクション>) 

紙の束の片側に穴をあけ、表紙を付けて糸で綴じる方法を「和綴じ」(唐綴じ)と言います。
元々は中国の製本技術で、平安時代に空海が日本に伝えたそうです。(諸説あり)
すでに奈良時代には巻子(掛け軸のような巻いたもの)や折本(お経のような蛇腹)が伝来していましたが、和綴じの方が扱いやすいという点で書物の主流になりました。

十返舎一九と江戸の製本職人

特に和綴じが発展したのは、木版画が大流行した江戸時代。
「東海道中膝栗毛」や「南総里見八犬伝」の作者として有名な十返舎一九は、「的中地本問屋(あたりやしたぢほんどいや)」という作品で製本職人が和綴じを作る工程を詳しく描いています。
ちなみに地本問屋(じほんどんや)とは、本を企画・制作・販売するお店のこと。今の出版社のような存在でした。
作品の中には、後でご紹介する和綴じの作り方と全く同じシーンがあります。
江戸時代の人と同じ作業ができるなんて、何だか楽しいですね。

「的中地本問屋」を見るには?

国立国会図書館デジタルコレクション 的中地本問屋 : 2巻

国立国会図書館のアーカイブから画像をダウンロードできます。

東京都立中央図書館「江戸・東京デジタルミュージアム」

現代に近い言葉を使って紙芝居風に物語を音読してくれます。

本の形態として日本人に一番身近だった和綴じですが、明治時代に西洋の製本技術が伝わると徐々に数が減っていきました。
しかし人々の暮らしから完全に消えたわけではありません。
和綴じの利点は、見た目の美しさはもちろん、中身(本文)の保存に優れている点と、修理がしやすいこと。数百年前の本でさえ、あまりダメージを与えずに修理することができます。
だから現代に至るまで、技術が大切に継承されてきたのです。

和綴じ<亀甲綴じ>の作り方

和綴じを作る注意点
  • 当サイトでご紹介するのは、作り方の一例です。他サイト様の情報もぜひ参考にしてください。
  • 「亀甲綴じ」は応用の綴じ方です。基礎の「四つ目綴じ」から始めた方が簡単かもしれません。

和綴じの道具

  • 本文の準備をする
    • カッター(本文を裁断する場合は使う。紙のサイズを変更しない時は必要なし)
    • クリップ
    • 定規(穴開けのガイド線を書くため)
    • ゴムハンマーか木槌(穴を開ける時に固ければ使う)
    • 目打ち(千枚通し)
    • カッターマット(穴が開いてもいい板など)
  • 本文と表紙を綴じる
    • 綴じ針 18号(針は基本的に何でも良いが、先端が尖っていない方が安全なため)
    • デンプン糊(劣化が少ないため。香り付きはダメ)
      ※のり、ボンドでも可
    • はさみ(先が尖っている方が使いやすい)
    • へら(定規でもいい)
    • 紙帯(適当な長さに切った紙の帯。後で捨てるのでチラシなどで作っていい)

和綴じの材料

※<>内はこの作品の寸法です。ご自由に調節してください。

  1. 表紙・裏表紙の和紙 1枚ずつ <12.5cm×17cm>
  2. 本文用の和紙 <10.5cm×15cm>※ページ数は自由
  3. 角紙の和紙(天・地)2枚 <2cm×2.5cm>
  4. 題せん(タイトルの台紙。必要な場合のみ)1枚 <2cm×10cm>
  5. 綴じ糸(本文の対角線の約5倍。刺繡糸、レース編み用糸、たこ糸など)

○その他の材料

  • こより(紙釘。本文を裁断した場合、固定するために使う)
  • 遊び紙(表紙・裏表紙をめくって次のページに入れる紙。お好みでどうぞ)

和綴じの方法

①本文の準備をする

本文(中身)と表紙を糸で綴じる前に、まず本文の準備をします。

○準備の流れ

  1. 本文にしたい紙を折る(ページを袋とじの状態にする) 
  2. 三方裁ち ※紙の裁断が必要な時のみ
  3. 本文に穴を開ける
  4. 中綴じ・仮綴じ(本文がばらけないようにする。こよりを入れて糊で固定する) ※クリップで本文を固定してもいい

詳しい方法は、この後の「本文を準備する方法」でご紹介するサイト様を参考にしてください。ただし「四つ目綴じ」の説明をされています。
亀甲綴じの穴を開ける時は、「亀甲綴じの穴開け位置」に沿って作業しましょう。

亀甲綴じの穴開け位置

穴を開ける位置は、基本的には「四つ目綴じ」と同じです。そこに亀の甲羅に似た綴じ穴を加えます。

  • 15mmの部分は亀甲綴じの場合、20㎜でも構いません。
  • 40mmの部分の長さと穴の数は、本のサイズで変わります。作るサイズに合わせて調節してください。
本文を準備する方法
コッタラベッコマガジン様のサイト

四つ目綴じの作り方を画像でわかりやすく説明されています。
穴開けの位置を書いたテンプレートがあり、ダウンロードもできます。テンプレートを使うと穴の寸法を測らなくて済みます。(ありがとうございます…!)

【女子 手づくり部 Vol.3】3種類のハンドメイド製本に挑戦してみたよ

※このリンクはトップページです。お手数ですがサイト内で記事を検索してください。

活版工房・丹様の動画

活版工房・丹様の動画では、和綴じに必要な道具・材料の紹介から、実際に針で四つ目綴じを作るところまで、和綴じの全工程を見ることができます(ありがとうございます!)

②本文に角紙を付ける

角紙の裏に糊を付けて、天と地に貼ります。ブヨブヨにならないように、しっかり。

③表紙・裏表紙を付けて、穴を開ける

まず裏表紙から始めます。 裏表紙の仮留めから穴開けまで終わってから 、表紙に同じ作業をします。

・本文と表紙を仮留めする

表紙の裏側に糊を付けて、本文に仮留めします。糊は中心のやや背側(穴が開いている方)に薄く付けましょう。糊を付けすぎると表紙がシワシワになるので注意。本文を置く位置は表紙の中央です。

・表紙の端を折り込む

まず背から始めます。本文からはみ出ている表紙にヘラを当てて筋を付け、折り目を作ります。この時、表紙を本文から髪の毛1本分ほど外に出しておくのがポイントです。作った折り目に沿って表紙を本文の下に折り込み入れます。
同様に天・地・小口(ページをめくる側)もしましょう。小口は背・天・地よりもやや大きめに表紙を外に出しておきます。(指が一番触れる場所でダメージを受けやすいため)

・折り込んだ表紙の角を切る

本文の下に折り込んだ表紙の角を斜めに切って、見栄えを良くします。

・表紙に穴を開ける

本文と表紙がばらけないように、紙帯を巻いて固定します。※クリップでも可
本文の穴に合わせて、表紙の同じ位置にも目打ちで穴を開けます。

④糸で本文と表紙を綴じる

上から2番目の穴から綴じ始めます。
綴じ終わった最後の糸どめは、玉結びでとめるか、糸の末端に糊を付けて本文に固定する方法があります。お好きな方でどうぞ。

具体的な方法は、下記でご紹介するサイト様を参考にしてください。

Hinekuremonogatari様の動画

Hinekuremonogatari様の動画は、四つ目綴じの針の動きをコマ撮りアニメ風に紹介されています。特に糸の始めと最後の糸どめを見ることができるので参考になります。(ありがとうございます…!)
亀甲綴じの綴じ方は、下記のwamono様のサイトをご覧ください。

wamono様のサイト(亀甲綴じ)

wamono様のサイトでは、亀甲綴じの針の動きを1針ごとに丁寧に画像で説明されています。亀甲綴じの情報は少ないので大変参考になります。(ありがとうございます!)下記のリンクをご覧ください。

和綴じ~亀甲綴じ~

⑤表紙の折り目に本文を貼り付ける

③で本文の下に折り込んだ表紙の端に糊を付けて、本文に貼り付けます。

⑥題せんを付ける

タイトルを書いた題せんを貼ります。一般的に題せんの大きさは、天地の3分の2、幅は2cm~3cm程です。
縦でも横でも、好きな場所に貼ってもいいです。お好みで貼らなくても構いません。

できあがり!

和綴じを作った感想

意外に簡単


先生に時々手伝ってもらい、「ゆっくりで大丈夫ですからね」と励まされていた私が偉そうな事を言うのは何ですが…和綴じは意外に簡単なのです。
お裁縫をする感じで紙に針を通していくので、特に手芸が得意な方は簡単にできると思います。

和紙は丈夫

和綴じを体験して、和紙の丈夫さに驚きました。
目打ちとハンマーでガンガン穴を開けたり、針で何度もザクザク刺したのに(やりすぎ注意)、ボロボロになりませんでした。

分厚い紙なら当然ですが、和紙は薄くて繊細なのに実はとても丈夫なのです。まるで細マッチョ。
この強度があれば、普段の暮らしで遠慮なく使うことができるでしょう。
和紙に針を入れると少し反発する感触があるので、紙に含まれている繊維が強さの秘訣なのかもしれません。

パーツを変えて遊べる

和紙といえば純和風な絵柄のイメージがありますが、今回私が選んだイチゴ柄のように、リバティやローラアシュレイ風の洋モダンな和紙もあります。

さらに糸の素材もキラキラした光沢のあるものを選ぶと、さらに出来上がりが全然違うはず。
本文(中身)に何を綴じてもいいですし、もちろん和紙以外の紙もOK。

いろいろパーツを変えて作ってみたくなるのが、和綴じの魅力だと思います。

和綴じを暮らしの中へ

和紙も和綴じも、すぐに壊れそうで扱いにくいというイメージが正直私もありました。
書をたしなむ方々の専門の道具で、自分には触れる機会のない遠い存在のような感じでした。

でも実際に和綴じを作ってみると、良い意味で予想を裏切られました。
和紙は美しく、機能的で、普段使いに耐えられる「しなやかな強さ」を兼ね備えた便利グッズなのです。

例えばお店のメニューや、ご自分の作品集、お子さんの絵、思い出のメッセージカードを和綴じでまとめるのもいいですね。
大切な物を保存するのに最適な方法だと思います。

ぜひ皆様も、生活の中に和綴じを取り入れてみてはいかがでしょうか?

和綴じ体験・教室

井上淳子先生(製本・豆本・和綴じ作家)のサイト

atelier ROSE & SATY

市立枚方宿鍵屋資料館(大阪府枚方市)

不定期で和綴じ教室を開催しています。

市立枚方宿鍵屋資料館ホームページ

和紙を購入できるお店

京都楽紙舘

和紙の卸問屋オオウエ

紙の温度  →今回のイチゴの和紙も売っています